シガラキマニア2021

アーティスト・伊達伸明さんのこと

「未整理の過去と手さぐりの未来との間に点描でしか描けない現在がある。」
まず最初に上の文章は、伊達さんの関わるあるプロジェクトの為に書かれた文章なのですが、これこそがアーティスト伊達伸明さんの真髄だと思います。
そしてもう一つ「置き忘れたもの」というキーワードがあります。
そのキーワードと上の文章は伊達さんの人物と、作品を見ていく上で無くてはならないものだと思っています。

伊達伸明さん

1980年代に京都市立芸術大学美術学部工芸科で漆工を専攻、90年代初めに音源を持ち込みむ事で作品(サウンドインスタレーション)を展開されていた伊達さんは、徐々にその表現方法に疑問を持ち、音源を持ち込む事をやめ、建物自体を音源にしてみる作品を発表されています。
1993年に閉校し2000年以降「京都芸術センター」として使われることとなる旧明倫小学校に装置をしつらえ、建物の各所に設置された小さなハンマーが観客の操作によって波打つ水と連動して音を出すという「TAP THE SPACE」シリーズを1996年に発表されています。その後97年ごろにイギリスに留学されたのですがそれまでやってきたこと以上に楽しいと思えることもなかったそうです。
そして大好きな木工で建物とかかわりながら楽器を作りたいと考えていたそうです。「TAP THE SPACE」シリーズで自ら音を出している建物を見て、それ自体がすでに楽器だなと思ったこともあって建物の素材から楽器を作ってはどうかと考えるようになったそうです。

また伊達さんは古いトタンや電信柱のひっかき傷など、時間を伴い表面に現れるものを写真に撮り集めるのが大好きです。それは今も継続されているそうですが、何故という問いに「目に見えている表面の陰に隠れた背景を知りたい、という思いからやっている」と答えています。

音にまつわる作品、大好きな木工、そしてトタンなど、表面の写真による切り取り。その大好きな三つの要素が出そろったときから伊達さんは今につながる作品を展開し始めました。

その最初が「建築物ウクレレ化保存計画」というプロジェクトです。

伊達さんはその建物に対して敬意をこめて。、そこに関わった人々、住人や管理人さん、その周りの人などに聞き込みをして、その建物の歴史と情念のようなものを肌で感じとってから、その一部をウクレレとして蘇らせます。
建物には音の記憶があります。住人が走り回る音、笑う音、喧嘩する音….その音の記憶をウクレレに写し取るのです。具体的な表現方法として伊達さん本人が得意の木工技術でその建物の一部を使いウクレレを作ります。

例えば伊達さんは、楽器としてよい木材がその建物からでてきたとしてもそれを優先したりしません。あくまでその建物に関わりのある人から話を聞き思いのにじみでる部材を優先的に使うようにしているそうです。

建物の表面の切り取りその裏にある記憶としての音、その二つの忘れ去られようとしているものをウクレレという形で残していくのです。

また「せんだいまちなかアート2012」でのプロジェクト「亜炭香古学(こうこがく)〜足下の仙台を掘り起こす」ではかつて石炭の代わりに生活に使われていた「亜炭」を題材に香りの記憶を呼び起こすということを作品化されています。

上記したものは伊達さんのプロジェクトのほんの一例ですが
手がけられた多くのプロジェクトを知っていくと共通することがありました。それはそこで暮らす人との対話です。対話によって個人がもつ歴史や物語、一見何でもないようにも思える習慣などが、伊達さんの人懐っこい笑顔と話口調によってその人から引き出されていきます。それをもとにして作品が展開されていくのです。

学問的な領域では取り扱われずその人や建物が無くなったとき消滅してしまいそうな「もの」や「こと」を何かの形、例えばウクレレのようなものとして残していく事が伊達さんの作品なのです。
さらに言うと、人の五感の記憶、音、視覚的、匂い、味、触、全てに記憶はついてきます。
その記憶を呼び起こすための装置が伊達さんの作品なのかもしれません。
伊達さんの温かい人柄に触れるとわかるのですが、地域や出会う人に対して愛にあふれています。作品を作る上で必要な情報収集も、その語り手の大切な財産を借り受けるような気持ちで聞き取りをされていることが分かります。
信楽とのかかわりは今回が初めてなのですが、まるで故郷に帰ってきたかのように一つ一つ自分も繋がっている過去を見つめるように歩かれる姿を見て、この人は僕たちの「置き忘れたもの」を拾ってくれるに違いないと思えてきました。



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