30歳で脱サラし、信楽に移住。
農業はめちゃくちゃ面白い。
信楽に来て、その面白さにハマってしまったと語る畑中さんに、お話を伺いました。
プロフィール
畑中農園
畑中信介さん(36歳) 兵庫県西宮市出身
https://www.instagram.com/shinsukehatanaka/
ー畑中さんの畑では何を作っているのですか?
今はトマト・きゅうり・なすび・オクラ・ミニトマトです。夏野菜が中心ですが、季節によって、またその年によって、色々な新しい作物に挑戦していきたいと思っています。
ハウスの中では毎年、トマトを作っていますが、露地栽培では年によって色々なものを育てています。
今年はさつまいもにも挑戦したいと思い、苗を植えました。
ー畑中さんが野菜作りを始めたきっかけを教えてください。ご実家も農家さんだったんですか?
いえ、僕はもともとは兵庫県西宮市の出身で、7年前までは普通のサラリーマンとして、会社で経理の仕事をしていたんです。
けれど、そんなサラリーマン生活に漠然と疑問というか、何か違和感を感じていて、30歳になったら会社を辞めて何か違う事がしたいなぁと思っていたんです。
そしたら、ちょうどそのタイミングで働いていた会社が傾きかけて…正社員じゃなく、営業の部下の社員?みたいな感じでやるか?って言われて…あ、これは辞める良いタイミングだなーって。
ーそれで会社を辞めて信楽に?農業をやるために?
最初は農業をやるつもりではなかったんです。
大学時代の友人から信楽への移住を誘われて、将来ゲストハウスでもやりながら鶏を飼ったり、家庭菜園で野菜を育てたり、自給自足のような生活が出来たらいいなぁって気持ちで。
だけどすぐにそんなことが出来るわけでも無いし、何か仕事をしながらお金を貯めて準備するつもりでいたんですけど、それでアルバイトで農業の手伝いをしていたら、それがめちゃくちゃ面白くなって、気がついたら農業の面白さにすっかりハマってしまっていました。
ーそれでは今はゲストハウスの夢は?
あーもう、今は全然。夢、変わっちゃいました笑
今はとにかく農業が楽しくて、野菜を作ることをもっと極めたいです。
そして、農業でもっと成功したいなーって。今はまだまだだと思っています。
ー農業のどういうところにそんなに惹かれたのでしょう?
一言で言えば、作物の成長がダイレクトに感じられるところですかね。
植物が育つのを見ているのがむちゃくちゃ面白いです。
手をかけたら手をかけた分、応えてくれる。
こうやったらどうだろう?ああやったらどうだろう?と、毎日が実験です。
1日1日の成長具合を見るのも楽しいし、毎年が不思議の連続です。
例えば植物って光合成するじゃないですか?不思議だと思いませんか?。
だって光のエネルギーによって無機物が有機物に変わるんですよ?
学校で習った理屈では分かるんですけど、でもじゃあなぜ有機物に変わって植物が成長するエネルギーになるのか、
見ていて不思議でたまらない。不思議なことが面白い。
そして、自分がやったことが、うまくいけば嬉しいし、失敗したら何がダメだったんだろうと考えて、また次の挑戦をする…
それが本当に毎日楽しくて仕方がないんです。先の見えない面白さを感じています。
ーでは、本格的に農業を始められたのは?
5年前からです。「しんによ陶器」の田村さんに、空いている畑を紹介してもらって、
自分の畑を持つことが出来ました。
田村さんにはめちゃくちゃお世話になっています。
田村さんだけでなく、信楽の人たちは皆すごく親切で温かくて、よそからきた変わりものの僕を躊躇なく受け入れてくれて、皆さんいつも応援してくれています。
ウラオモテが無くて、まっすぐで、優しい人が多いなと感じます。
地産地消を掲げている「しがらきマルシェさん」など農家の立場に立って考えてくれるグループの存在もありがたいです。
畑に直接買い付けに来てくれて、飲食店や消費者に届けてくれるので、とても助かっています。
他にも個人的に応援してくれる人もいて、毎年トマトの時期になると、トマトの収穫に来てくれたり、SNSで広く宣伝してくれたり…僕の畑の広報部長です笑
余談ですが、信楽には僕に負けないくらい個性的な人が多くてビックリしました。
田舎なのにすごく派手な髪の人やファッショナブルな人や芸術的な人に沢山出会って…
普通の田舎だと変わり者扱いされてしまいそうな人も全て受け入れる、そんな懐の深さを感じています。
それが信楽の良いところだと思います。
立地的にも大阪や京都などの都会にもアクセスが良くて、なのにしっかりと田舎の良さや
自然がたくさんあって、景色もいい。
意外にそれほど寒くなくて…とにかく全部がちょうどいいところ。
もっとみんな移住してきたらいいのになって思います。
-確かに。信楽は昔からやきものの町、アートの町で岡本太郎さんを始め、横尾忠則さんとか、
外国人のアーティストとか、多くの芸術家を受け入れ、愛されてきた町だから、
今でも芸術に関わる人は多いし、お父さんお母さんが陶芸家…
なんておウチも珍しくないですしね。だからかも。
でもそれって、実はすごい事ですよね。ところで信楽には陶芸家さんだけでなく、
農家さんも沢山いらっしゃいますが、他とは違う畑中さんの畑の特徴を教えてください。
僕の畑の野菜は農薬や化成肥料を使わずに作っています。
有機肥料も動物性のものは使ってないんですよ。
微生物の層を使っての土づくりを目指しています。
今年はいわゆる堆肥も入れていなくて、生の有機物…生の米ぬかや雑草を土の表面に置くだけ。
そして、それがやがて発酵して土の表面から肥料を作っていく…
そうすると耕す必要も無くなってくるんです。
今年は耕うんしているけれど、来年はハウスの中は耕うん無しでいける予定です。
これは徳島の米崎さんという方から学んだ農法で、有機炭素を使うことで、土が元気になり、
土が元気だと農薬を使わなくても病気や虫を防ぐことが出来るんです。
農薬を使っていない畑では小さな生き物が住みつきます。
小さなカエルなどが害虫を食べてくれたりして、そこに生態系ができます。
ー畑中さんの畑は俗にいう自然農法というものですか?
ああ、そうですね…そう言い切ってしまうのは難しくて。
自然農法の定義がもうめちゃくちゃ広く、一概にこれが自然農法とは言えないんです。
何もしないことを自然農法という人もいるし。
でも畑の土がもうずーっと農薬や化成肥料使って病気みたいな状態になっているのを自然の力を使って健康な状態に戻すっていうのが自然農法という考え方もあるんです。
僕の畑も農薬化成肥料使ってた頃の方が虫がめちゃくちゃ湧いたりしてて…
でも今は虫退治とかは一切やってなくて。
作物の病気も、昔は農薬をかけまくってたんですけど、今はもう全くかけてないんですけど、
病気にかかりにくくなりました。
ー無農薬だったら、畑中農園の野菜は有機JASなんですか?
いいえ、有機JASとかはまだ取ってないです。個人的にはあまり取る気は今は無いのですが、
消費者が野菜を買う時にイメージ的に健康に良いものを食べたいってなったときには
すごい有効な指標なんかなぁとは思います。
僕の周りにも様々な農家さんがいらっしゃいますが、みんなそれぞれやり方が違うんですね。
有機栽培の人もいれば慣行農法の人もいる。
何が良くて何が悪いということはなくて、それぞれの生き方や考え方、営みが如実に表れています。
そして性格なんかも畑を見ると分かりそうな気がします。
Aさんの畑はAさんらしいし、Bさんの畑はいかにもBさんらしい。
よその畑を見るのも興味深く面白い。勉強になります。
畑には自分自身が反映されるので、畑が良くなっていくと、自分も良くなっていると感じます。
僕にとって農業は今一番人生の根幹の仕事です。
ーなるほど。確かにこうして見渡せば、ここに広がる畑中さんの畑やビニールハウスは
なんだか畑中さんぽいですね。おおらかというか、なんというか。
あっ、このビニールハウスの中の通路の雑草は近々キレイにします。
作業が追いついていなくて・・・
ー今後こうしたいああしたいという夢や展望はありますか?
農業を始めた頃はやっぱり初期投資が必要で、1年で貯金がゼロになったんですね。
天候にも左右されるし、ギャンブル要素が強いですよね。
だから、なかなかそう簡単に農業でも始めようかって始められない。
だけど、若い人にもっと気軽に始められる仕組み作りが出来たらいいなって思っています。
僕は心の底からサラリーマンを辞めて良かったなと思うので、みんなが若いうちに
農業体験が出来る環境が出来たら良いなって思っています。
今の農法を気に入っているので、それでちゃんと農業で生計を立てれるコミュニティが作れたらいいなと思います。
そして、この農法の良さを多くの人に知ってもらい、広めたいですね。
仕組みさえできたら若い人で農業やりたいと言っていただいたら呼び込みます。
ほんとに大げさでもなく人生変わると思うので。
もちろん、自分が作った野菜を多くの人に食べてもらいたいって言う気持ちはあると思うんですけど、その気持ちより、この農業この農法を広めたいって言う気持ちの方が強いです。
おいしい野菜を作ってそれを食べてもらうのは嬉しいけれど、そこがゴールではないです。
住むところとかも提供っていうか、紹介をして、そこでみんな農業の技術とかを教えあったり、お互いの技術を見たりとかしながら、いろんなノウハウをシェアしながらっていうかね。
ー例えていうなら、今、信楽にはシガラキシェアスタジオっていう陶芸家の貸し工房があるんですけど、
そこは単なる貸しスペースではなく、そこにコミュニティがあって、お互いの交流や刺激があって、
技術的な知識の共有でお互いが高めあっていける場所なんです。
畑中さんのやりたいのってそれの農業版って言う感じですよね。
そうですね言ってみればそんな感じ。面白いですね。僕はコミュニティの憧れが強いんですよね。
どういう風にしたらいいんやろうっていうのは具体的にまだ全然見えてこないですけどね。
まずは僕自身がこの農法でしっかり食べていけるように確立する事ですね。
-畑中さん、ありがとうございました。
夢はどんどん膨らみますね。聞いているこちらまでワクワクしてきました。
そして、まだまだ若い畑中さんが信楽に移り住み、こんな風に信楽の農業について
考えていらっしゃることに感銘を受けました。
元気な土で育つ無農薬の野菜を未来の子ども達にも届けたいものです。
そして、そういった農業をもっとさらに若い人達にも引き継がれていく事を期待します。
聞き手 キシガミフミコ(しがらきマルシェ)