今回の企画において、まず私が以前から気になっていたことは、【前回の記事】
ご覧いただいて分かる通り、コスメの材料と陶芸の材料の成分が同じものが結構あるということでした。
それならもしかしたら信楽の土でも何かできるのではないかと考えたところから始まります。
そもそも化粧をするという行為は、
・日光や空気中の埃などから肌を守る
・肌を綺麗に見せる
・色を付けて装飾する
という目的を満たすためです。
アフリカのある地域では、植物や粘土を使って全身を装飾する文化を持つ部族がいます。
土はもちろん人工的に精製したものではなく、肌の装飾に適した粘土質のきめの細かい自然土が選ばれます。
黒く美しい肌にピタッと張り付き、肌の質感に合わせて選ばれた土の装飾は美しく、
非常にオリジナリティに溢れ、彼らの美意識は違う文化を歩む私たちをも魅了します。
地球という1つの惑星の中でも場所により生み出す空気、風土、物質は少しずつ違います。
そしてその土地で生まれた全てのものはその土地に生きる人と密接な相互関係があると思います。
その土地の養分を吸って生まれた野菜果物あるいは動物を食することで私たちはその土地に適応し、
体の作りもそこに合うものとなっていきます。地域で採れる土やその地域で育ったもので
作った化粧品はもしかしたらその土地に住む者にとって適しているのかもしれません。
昨今では化粧品のみならず、薬や食品や日用品の中に、暮らしをよくするために使われる化学物質がどんどん増えてきていますが、過去ほんの100年遡ってみれば、もっとシンプルで必要十分な材料が既に揃っていたのではないかと思います。
シンプルな材料のみで作られた化粧品が現在では人気になってきていますが、改めて私たちを取り巻く環境をその素材から見直し、今回はコスメという全く新しい角度から信楽という地域の資源を考えていきたいと思っています。
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今回信楽で採取した土は蛙目(がいろめ)粘土と赤土です。赤土は粘土に酸化鉄などが混じって出来ています。この2つの粘土は陶芸をする人にとってはお馴染みの材料です。
赤土は黄土色、蛙目粘土は緑掛かったグレーになっています。
これら2種類とも、含まれる粘土鉱物からするとカオリン粘土になります。
カオリン粘土は、花崗岩が風化して出来たものです。花崗岩はもともと,石英,長石,雲母などの鉱物から出来ていますが、長石と雲母は風化が進むと、最終的にカオリン鉱物へと変化していきます。
私が採取した蛙目粘土の成分分析した資料がありましたので見てみると、その成分の99%以上が化粧品原料として使用されていることが分かりました。
実際に採取した土を精製し、自分の肌につけてみると、非常に滑らかで、ファンデーションとして使えそうな手ごたえを感じました。
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粘土(=クレイ:化粧品としては粘土鉱物をクレイと呼ぶのが一般的です)は古代から化粧品や内外薬品として治療に使われてきたという歴史があります。
紀元前3000年頃から、古代エジプトではクレイを使って病人を治したり、その高い消毒効果を利用して死者をミイラ化する際に薬草と共に利用していました。また、クレオパトラは美容のためにクレイを顔に塗っていました。
古代ローマでは、骨折や腫瘍の治療にもクレイが使われてきました。
オーストラリアのアボリジニは儀式の際にクレイでボディペインティングをしたり、アメリカの先住民たちもクレイを使っています。
日本ではシャンプーがない江戸時代から昭和初期頃まで、力士の鬢付け油(びんづけあぶら)の洗浄に使われていたそうです。
また、そもそも動物たちも本能的にクレイの特性を理解し、傷を癒したり肌を保護するために体にクレイを塗ったり浴びたりしています。
私たちは太古の昔から現代に至るまでクレイを様々な用途に活用してきました。
クレイの特徴は
・肌の汚れを取り除く吸収・吸着作用
・細胞間の水分バランスを整える作用
・体内の老廃物を吸着する作用
・クレイのミネラルを体内に取り入れる作用
・汚れを吸着するのと同時にクレイの持つ成分を肌に残してくイオン交換作用
などがあります。
肌にのせておくだけで体液の動きを良くしたり、水分バランスを調節してくる働きがあり、自然療法としても用いられています。
市販されているクレイは日本のみならず、アメリカ、フランス、インド、モロッコ、イタリア、ブラジルなど、世界中の地層から掘り出され、利用されています。
では、信楽の土は一体どのような成り立ちがあるのでしょう。
「信楽は昔、琵琶湖の底だった」
そんな話を聞きます。
信楽は良質の陶土が採れますが、その土は一体どのようにして出来てきたのでしょうか?
地質調査総合センターの資料によると、信楽一帯の土地は主に白亜紀後期の花崗岩で出来ており、田上(たなかみ)花崗岩、信楽花崗岩などという名が付いています。
(白亜紀は1億4500万年前~6600万年前です。白亜紀後期は8000万年前位でしょうか?)
その後、約400万年前から約40万年前に古琵琶湖が形を変えながら北へ移動していき、信楽を含む広範囲の地層が形成されています。
ちなみに古琵琶湖は、現在のような広大な湖ではなく、湿地帯を含む小さな湖が地形のくぼ地に溜まり、それが移動していったのだそうです。
このような変遷を経て、信楽には長石や耐火粘土が採れる鉱山がいくつも出来ました。
(現在は多くが閉山しています。)
先に述べた通り、私が採取した土は花崗岩の風化物であり、それが陶芸に適した土となり、また今回の化粧品材料となっています。
白亜紀後期からの岩石が地形、環境を変えながらゆっくりと粘土へと変わっていき、今、その一部を利用させていただいています。
地球の脈動は人の尺度では計り知れないほどゆったりと、でもダイナミックに動いています。
そんな地球の豊かさを皆さんと一緒に感じることができれば、今回のプロジェクトは成功したと言えると思います。
最後までご高覧いただき、どうもありがとうございました。
企画・プロジェクト運営: misin-yaやまだあやこ